「ファミリーガバナンス」と「ファミリーケア」の違い|具体例も

終活
2026.10.30
「ファミリーガバナンス」と「ファミリーケア」の違い|具体例も

この記事を書いた人

運営部課長 小林 雄志

葬儀・供養業界経験者。複数の霊園・納骨堂での勤務経験あり。
取得資格:終活コンシェルジュ

企業の持続的な成長や円滑な事業承継を実現するためには、経営だけでなく、オーナー家族との関わり方や意思決定の仕組みを整えることも重要です。近年では、家族と企業の双方を支えるさまざまな考え方や取り組みが注目されています。

「ファミリーガバナンス」と「ファミリーケア」は、名称が似ているものの、それぞれ異なる役割をもつ考え方です。ファミリーガバナンスは一族と企業の意思決定や承継の仕組みづくりを指し、ファミリーケアは家族の健康や生活を支える制度・取り組みを指します。企業を長期的に発展させるには、それぞれの役割を正しく理解しておくことが重要です。

そこで今回は、「ファミリーガバナンス」と「ファミリーケア」の違いを項目別に比較しながら、それぞれの特徴やメリット、企業経営における役割について詳しく解説します。

1. 「ファミリーガバナンス」とは?

ファミリーガバナンスとは、創業家やオーナー一族が関わるファミリービジネスにおいて、事業や資産を次世代へ円滑に引き継ぎ、長期的な発展を目指すための仕組みです。経営方針や一族の価値観を共有し、意思決定のルールや役割分担を明確にすることで、事業承継や資産管理をスムーズに進められるようになります。

また、後継者選びをめぐる対立や経営への感情的かつ過度な介入、株式の分散など、ファミリービジネス特有のリスクを未然に防ぐ役割も担っています。企業や一族の状況に応じて適切な体制を整備・運用していくことが、持続的な企業価値の向上につながります。

1-1. ファミリーガバナンスの主な構成要素・取り組み

ファミリーガバナンスは、単にルールを作るだけではありません。一族の理念や経営方針を共有し、それを実践・運用するためのさまざまな仕組みを組み合わせて構築します。

採用される仕組みは企業規模や家族構成、経営課題などによって異なるため、自社に合った形で整備することが重要です。代表的な取り組みとしては、下記が挙げられます。

●ファミリー憲章
一族の理念や価値観、経営への関わり方、事業承継の考え方などをまとめた基本方針です。一族全体で共通認識をもちやすくなります。

●ファミリー契約・規則
株式の取り扱いや後継者の選定方法などを具体的に定めたルールです。将来的なトラブルや認識の食い違いを防ぐ効果が期待できます。

●ファミリー会議
一族が定期的に集まり、経営状況や事業承継、資産管理などについて情報共有・意見交換を行う場です。円滑な意思決定や一族の結束につながります。

●ファミリーオフィス
資産管理や税務・法務などを専門的に支援する組織です。資産規模や事業規模が大きい一族では、専門家の支援を受けながら運営するケースもあります。

このように、ファミリーガバナンスは複数の仕組みを組み合わせながら運用することが一般的です。どの制度を導入すべきかは企業ごとに異なるため、自社の課題や将来像に合わせて整備していくことが求められます。

1-2. ファミリーガバナンス構築のメリット

ファミリーガバナンスを構築することには、下記のようなメリットがあります。

●事業承継を円滑に進めやすくなる
後継者の選定基準や経営への関わり方、株式の承継ルールなどをあらかじめ整理しておくことで、承継時の混乱や家族間の対立を防ぎやすくなります。世代交代がスムーズに進み、事業の継続性を維持しやすくなる点もメリットです。

●ファミリービジネス特有のリスクを軽減できる
株式の分散や経営権をめぐる対立、一族間のトラブルなど、ファミリービジネス特有のリスクにあらかじめ備えやすくなります。経営や資産管理に関するルールを明確化することで、企業経営の安定にもつながります。

●企業の持続的な成長につながる
一族の価値観や経営理念を共有しながら意思決定を行えるため、世代交代後も経営の方向性がぶれにくくなります。また、意思決定の透明性や納得感も高まり、中長期的な企業価値の向上が期待できます。

2. 「ファミリーケア」とは?

一般的にファミリーケア(ファミリーケア制度)とは、従業員が育児や介護、家族の看護などのライフイベントと仕事を両立できるよう、企業が整備・運用する制度や取り組みの総称として用いられる言葉です。

ただし、これはあくまでも従業員に対するファミリーケアを意味します。ファミリー企業におけるファミリーケアでは、企業を支えてきた一族が世代交代後も良好な関係を保てるよう、事業承継後の立場や役割、会社との関わり方などに配慮することも重要です。

事業承継では、後継者の選定や株式・経営権の移転など、承継を実現するまでのプロセスに目が向きがちです。しかし、事業を承継した後も、先代経営者をはじめとする一族と会社との関係は続きます。

承継後の立場や役割が曖昧なままでは、先代経営者と後継者との間に認識のずれが生じたり、一族内の関係に影響したりする可能性もあります。

そのため、事業承継そのものだけでなく、一族のファミリーケアまで適切に行い、「承継後の一族がどのように会社と関わり、それぞれがどのような立場で過ごしていくのか」まで考えることが大切です。

ファミリーガバナンスと創業家のファミリーケアの両方の視点をバランス良く取り入れることが、持続可能な経営基盤の構築と組織全体および一族の安定につながるでしょう。

3. 事業承継後の一族向けのファミリーケア具体例

経営者一族向けのファミリーケアでは、事業承継後の先代経営者をはじめとする一族が、それぞれの立場や意向を尊重しながら良好な関係を維持できるよう、継続的に支えることが重要です。

特に事業承継では、承継後の先代経営者へのケアが見落とされやすくなります。会長や相談役として会社に残る場合と、経営から完全に退く場合とでは必要な配慮も異なるため、それぞれの状況に応じた仕組みを整える必要があります。

ここからは、事業承継後の一族向けのファミリーケアの具体例を3つ紹介します。

3-1. 会長・相談役などとして会社に残る先代経営者へのケア

事業承継後も先代経営者が会長や相談役などとして会社に残る場合は、後継者との役割分担や権限の範囲を明確にすることが大切です。先代経営者が従来と同じように意思決定へ関与し続けると、後継者が経営を主導しにくくなる可能性があります。

例えば、重要な経営判断に対して先代がどの程度関与するのか、後継者への助言をどのような形で行うのかなど、承継後の役割や関与のルールをあらかじめ定めておく方法があります。

一方で、先代が長年培ってきた経験や人脈は会社にとって貴重な財産です。後継者の経営を尊重しつつ、先代の知見も生かせる立場や関わり方を整えることが、承継後のファミリーケアにつながります。

3-2. 経営から退き隠居する先代経営者へのケア

事業承継を機に経営から完全に退く場合は、引退後の先代経営者の生活や会社との関わり方にも目を向ける必要があります。

長年にわたり経営を担ってきた先代にとって、事業承継は単なる役職の変更ではありません。経営の第一線から退くことで、日々の過ごし方や家族との関係などにも変化が生じる可能性があります。

そのため、会社との関わりをどの程度残すのか、引退後にどのような生活を望んでいるのかなど、本人の意向を確認し、一族で共有しておくことが大切です。経営から退いた後も一族の一員として尊重し、本人が納得できる形で新たな生活へ移行できるよう配慮することも、ファミリーケアの1つです。

3-3. 承継後も一族で対話を続けるための仕組みづくり

事業承継によって経営上の立場が変わっても、家族としての関係はその後も続きます。そのため、承継時に役割や方針を決めて終わりにするのではなく、承継後も一族で継続的に話し合える仕組みを設けることが重要です。

例えば、定期的に一族が集まる機会を設け、会社との関わり方や各人の役割、今後の方針などについて認識を共有する方法などが挙げられます。

このように、経営者一族向けのファミリーケアでは、事業承継を1つの区切りとして捉えるのではなく、承継後も一族それぞれの立場や意向に配慮しながら、会社と家族の関係を継続的に整えていくことが重要です。

まとめ

ファミリーガバナンスとファミリーケアは、どちらも企業の持続的な発展を支える重要な考え方ですが、対象や目的、具体的な取り組み内容は大きく異なります。

ファミリーガバナンスは経営者一族の円滑な意思決定や事業承継、資産管理などを支える仕組みであり、その家族のファミリーケアは多様化する家族の在り方に対応していく必要があります。

自社と家族の状況や課題に応じて適切に取り入れることで、経営の安定化と組織の持続的成長だけでなく、一族の持続的な安定につなげやすくなるでしょう。

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